R18的なもの(ウソ)


「――うっ、あ……」

 思わずつむってしまった目を、うすらと開く。
 間近には先程と変わらず見降ろしてくる、蒼い双眸が、薄闇の中、苦しげに歪められていた。
「ロウ、リィ……ね、……もう、無理」
「はい、ですが、僕も、もう限界なんです……」
 さっきから小刻みに、腕が震えている。
 遠くまで見通せない、闇の内でも、彼の額にびっしりと汗が浮かんでいるのが分かった。
 どちらも、もうこれ以上は無理なのだ。
「あ、の、……う、……ね、おもい……重いの! ロウリィ重い!」
「僕ももう、腕これ以上もちません。あの、カザリアさん、もう、これやめていいですか?」
「わっ、ロウリィ、すごいわよ、腕がプルプルしてる」
「だから、もう無理なんです。やめましょうよ」
 ロウリィの顔が苦痛に歪む。
 彼は、しばらく耐えていたようだったが、ほどなくすると結局すぐ真横に崩れ落ちた。
 疲れた、とロウリィは、うつぶせに倒れ込んで呻いた。
 退いた重みに、私も、はぁーと息をつく。
 隣で、未だ寝台の上できつそうにへばっている夫を見やる。全く、どこまでいっても情けない。
「ちょっと、ロウリィ。これじゃ、筋トレにならないじゃない」
 彼の体を揺すると、うぅと唸りながら、ロウリィは顔だけを横に向けて見上げてきた。
「筋トレって、この方法間違っていませんか。そもそもどうして筋トレになったんですか」
「だって、あまりにも危なっかしいんだもの。このままじゃ、そのうちぐっさりやられちゃうわよ。ルーベンに何かいい方法はないかしらって相談したら『奥様が下になって、上で旦那様に腕立てさせればいいですよ』って。『旦那様も、さすがに奥様を踏みつぶしてはいけないと思って頑張るでしょうから』って。なるほど、って思ったのよ」
 どこがなるほどなんですか、とロウリィは、恨めしげに言う。

「なんか、もういろんな意味でしんどいんでやめてください……!」

 こうして、ロウリィ増強計画は、一夜にして幕をおろした。