おかしな夏休み【1】


「ぷっはー。大学生の夏休みってらくちんですよね」
 青いソーダにぽっかりとバニラアイスの浮かぶクリームソーダ。奏多は、ソーダの上に漂いはじめた溶けたアイスの白い泡をストローの先で崩して沈めながら、満足しきった顔で言った。
「こっちは割と忙しいんだけど」
「だって、宿題もないのに、九月まで休みなんですよ! 小中高の夏休みは八月で終わるっていうのに! ほんと、高校時代夏課外のせいで夏休みの半分がつぶれてたのなんて嘘みたいですよね」
「レポートも発表準備も結構大変なんだけど」
「ひとがあくせく学校に通ってる間、休みだなんて最高ですよね」
「魔女子さん、人の話聞こうか?」
 有馬は、呆れた顔を向かい側に向ける。
 けれども返って来たのは「有馬さんがジンジャーエールだなんて珍しいですね」という的が外れ切った言葉で、今日も彼は『やっぱりいいや』と奏多を放置する方向に決めたのである。
 珍しく商店街でなく地元のショッピングセンターで遭遇した二人は、珍しく商店街の喫茶店でないお店に入っていた。
 どうやら大学に入って二度目の夏休みを満喫しているらしい奏多のことを、夏休みに入って以来疲弊しはじめた有馬は心底羨ましく思った。
「魔女子さんは、どこか行ったの?」
「はい。行きましたよ。ここ一帯のお店は大方回りましたからお任せください」
 どんと胸を叩いて、奏多は言う。「何が」と聞くほど有馬は奏多との付き合いが短いわけでもなく、「何が」と聞かれる前に、当然、奏多は「おいしいところリストアップしたので、一緒に巡りましょう」と有馬を誘ったのである。
「いや、時間ないし」
「夏休み終わってからでもいいですよ?」
「回るのめんどうだから近場でいいよ」
「近いところもありますって」
「友達と行きなよ」
「友達とも行きますけど」
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
「なら、お土産買ってきますね!」
「いや、近場のお土産は別にいらないから」
 有馬はあっさりと奏多の申し出を断る。
 ならいいですよ、と奏多は不服そうに、ずずーとクリームソーダをすった。
 しばらくして、「そうだ」と顔をあげた奏多は、アイスクリームを掬うため、手に取ったスプーンをぶんぶんと軽く振ったのである。
「有馬さん有馬さん、私、彼氏ができました」
「なら、普通に彼氏の方、誘いなよ、魔女子さん」
「そっか。それもそうですね」
 そうしよう、と奏多は青いソーダに浮かぶアイスクリームをスプーンで掬いながら、一人頷く。
 有馬は『彼氏の人、がんばれ』と心の中で応援しつつ、自分自身はお菓子巡りから外れたことに安心してジンジャーエールを飲んだのである。