お菓子をください おまけ


 有馬はこの店で一番おいしいとされる珈琲を一口すすった。
 席に付いて店員が注文に来るなり、彼女は、「この店で一番おいしい珈琲を」 と店員に無理難題を押し付けたのだ。この店には珈琲は一種類しかないというのに。
 顔を引きつらせながらも、「かしこまりました」 と請け負った店員が持ってきた珈琲はこの前来た時となんら変わらない。ちょうど良い苦さと香ばしさが口にふわりと広がる。
「魔女子さんは、本当に幸せそうに食べるよね」
「だから、奏多ですってば!」
 頬張っていたフランボワーズのムースを呑みこみ終えた後、奏多が言った。
 彼女の皿には、やはり、この前と同じ様にたくさんの異なる種類のケーキがこれでもか、というほど載せられている。
「はいはい、わかったから。フォークを振りまわさない。行儀が悪いよ、魔女子さん」
「奏多だって言ってるのに……」
 項垂れる奏多に、有馬は苦笑する。
 一度染み付いてしまった呼び名を変えるのはなかなか難しいものだと思う。
 奏多がちらりと顔を上げた。
「有馬さん、ケーキ食べたくなってきました?」
「だから、ならないってば」
「だって、ずっとこっち見てるじゃないですか。羨ましいんでしょ?」
「別にそうじゃないから。まあ、魔女子さん見てると本当においしいんじゃないかって錯覚しちゃうけどね。ケーキじゃなくておいしそうに食べる魔女子さんの顔が面白いだけ」
「それって、嬉しくない」
「仕方無いでしょう。可笑しいんだから」
 うぅ、と再び項垂れた奏多をも、また面白いと思いながら、有馬はコクリと珈琲を飲んだ。
「奏多ですって……」
 クスクスと笑う有馬に奏多は最後の抵抗を試んでみたが、どうやらそれは届かなかったようだ。

 奏多と呼ばれるのはいつの日のことやら。
 そもそもそんな日が来るのかどうかさえ、二人を含めて、今のところ誰も知らない。