おかしな夏休み【2】



 奏多は、アイスクリームを載せたスプーンを口に運んで嬉しそうに笑む。
 盆を過ぎて、随分と過ごしやすくなってきた気はするが、日のあるうちはまだまだ暑い。店の中は涼しいとはいえ、冷たいものを食べたくなる気持ちは有馬にもよくわかる。氷粒が入っているのか、しゃりしゃりと咀嚼する音が聞こえて、心なしかこちらまでひんやりと涼しくなった。
 奏多は、三分の二ほど食べ終えてしまったアイスクリームを、スプーンの裏で青いソーダの中に沈ませ、溶かし始める。
 その姿は、いつもと変わらず、自分がこの場にいることも特段気にしている風がないので、有馬は『まぁ魔女子さんが気にしないなら今日のところはいいか』とひっそりと肩をすくめた。そもそもほぼ強制的にお茶に誘ったのは奏多の方だから奏多自身が気にしているはずもないだろう。
 ただ、奏多の彼氏になったという人がこの状況を見た場合、どう思うかは彼次第であるし、もしも誤解されると何かとややこしいことになるのではないか、と有馬は思った。とにもかくにも今は遭遇しないことを願うばかりである。
 だが、ひとまずは、祝うべきことであろう。確か以前、奏多が『彼氏がほしいんですよ』とケーキをつつきつつぼやいてたのを有馬は覚えていた。
「その彼氏さんって、魔女子さんと同じ学校の人?」
「あ、違います。高校の同級生ですよ。三年の時、一緒だった。えーとこの間、同窓会があってですね? その時に。依月ちゃんに言わせると『今さらか!』って感じらしいんですけど」
「魔女子さんは、全然気づいてあげてなさそうだよね」
「はい。ぜんっぜん。帰りに言われて、本っ当にびっくりしたんですよ」
 その時のことを思い出したのだろう。ほんのりと赤くなり出した顔を冷やすように、奏多は慌ててクリームソーダのストローに口をつけた。
「そっか。よかったね」
 あまりの慌てっぷりに、おかしくなって、有馬はこらえきれずに笑う。
 奏多はあらかたソーダに混ざってしまったアイスクリームから目をそらして、「えっと、はい」と照れくさそうに頷いた。