入れ替えっこ ラピスラズリのかけら 

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  5章 蜜月の破片 フィシュア→リシェル(four o'clock)  

 

 言葉を失って佇んでいるテトとシェラートを見やって、彼らの後ろに控えていたロシュは呆れたように自分の主を見やった。
「エリィシエル様……皇宮に連れてくると決めていたのに、彼らにちゃんと話をしていなかったのですか?」
「―――そう言われてみると話しをしてはいませんでしたが…………そんなに驚くことですか?」
 リシェルは口を開いたままのテトを見やる。それによってようやく戒めを解かれたらしいテトは、リシェルをじっと見据えたまま固まっていた口を動かした。
「……フィス(五)、トリア(姫)……?」
 掠れ、途切れながらも何とか紡がれたテトの声にロシュは肯定の頷きを返してやる。

「そうです。エリィシエル様はフィストリア(五番目の姫)―――つまり、ダランズール帝国第五皇女にあらせられます」

 テトは、ロシュとリシェルを見比べて「そうだったんだー」と納得したように頷いた。
「まあ、平民の出ではないだろうとは思ってたけど、まさか貴族どころか皇女とはな」
 シェラートはこの国の第五皇女と告げられたばかりのリシェルの姿を上から下まで眺めてみた。
 腰の部分で紐を使って縛っただけの丈の長い城の衣は薄汚れて黄味がかり、その下に佩いている同色のズボンは明らかに動きやすさを重視したもの。装飾具と言ったら、宵の歌姫の証であるラピスラズリの首飾りと先程知り合いの船乗りから貰ったと言う薄桃の擦りガラスの腕飾りだけ。どちらかと言うと先程までリシェルの横に立っていた侍従の男の方が小奇麗な格好をしていたくらいだ。
 それでも、隠しきれぬ気品がリシェルにはあった。金の髪は陽光に映え、若草の瞳は輝かしい。何よりも彼女の仕草一つ一つが洗練されたものだったのだ。近くにいれば、気付かぬはずがない。
「ほら、“宵の歌姫”も“闇宵の姫”にも“姫”がついていたでしょう? どちらも“姫”がその役割を担っていたから“姫”がついているのかもしれません」
 リシェルが示した案に、テトとシェラートは揃って「なるほど」とすぐさま同意を露わにした。
 リシェルが姫と言われれば、納得はすれど、疑うところはどこにもない。
「リシェルって御伽話のお姫様みたいだもんね」
「そんなことありませんよ」
 テトがにっこりと笑ったのに対し、リシェルは首を横に振って困ったように笑った。たったそれだけの動作にもかかわらず、全てが作り込まれたかのように丁寧であった。
「現皇宮内では、リシェル様が一番あなた方の言う“お姫様”に近い愛らしさを持っていらっしゃるでしょうね」
 ロシュはやんわりと微笑んで、二人に示す。テトは「うん」と頷いた。
「リシェルよりもお姫様みたいなお姫様がいたらびっくりするよねぇ?」
「だな。そうなってくるとある意味恐い」
 一体中はどうなっているんだ、と思うことになるだろう。とりあえず、テトとシェラートの二人は、促されるがまま皇宮へと足を踏み入れることになったのだ。


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