入れ替えっこ four o'lock その1

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  1そもそもの始まりは アトラス→ガーレリデス(ever after)+愛花→奏多(お菓子をください)  

 
 彼女は突然現れた。

「陛下、その娘御は……?」

 陛下の肩に担ぎ上げられている少女。
 見たこともない奇妙な服装、縮れた黒い髪、好奇心に溢れる黒の瞳。
 なされるがまま陛下に身を任せて、飾られているシャンデリアを見上げては「すっごーい」と感嘆の声を上げている。
 その少女を蒼色の目がちらりと見やる。
 陛下は「すごい、すごい」とはしゃいぎ続けている少女を抱え上げたかと思うと、彼女を床の上に立たせ、私の方へ向かせた。駆けて行きそうな黒髪の少女を留めるべく、彼は少女の肩に両手を置いて抑える。
「街で拾って来た……」
 陛下は至極疲れたようにそう仰った。「街で、ですか?」と問い返そうとした時、「うっわー!」とこちらを凝視される。黒髪に黒眼など、この国ではとても珍しい。その二つの要素を持ち合わせる彼女に詰め寄られて、思わず後ずさってしまった。
「すっごい! お姫様だぁ! 綺麗、初めて見た! 本物ですよね!?」
 うわー、うわーと黒い瞳をキラキラさせて、彼女は近づいてくる。驚いてしまって、私はまた一歩後退する羽目になった。
「あの、お姫様、私、奏多って言うんです!」
「ええ、あ、はい、私はエリィシエル・ノウラ・ディ―――」
「仲良くしてくださいね、お姫様!」
 きゅっと手を握られて、にっこりと微笑まれる。勢いに押されて呆気にとられつつも「……ええ」と返すしか道はなかった。
「と言う訳だ、後はよろしくな。リシェル」
 陛下は肩を竦める。私はカナタに手を繋がれた格好のまま「はい」と了承を返した。それに首肯し、早々に立ち去ろうとした陛下は、だが、ふと足を止めてカナタに向き直った。
「ええと、カナタか? 菓子をちらつかされたからと行ってついていくな。見世物小屋に売り飛ばされるぞ」
 そうだろう? と陛下は幼い子に言い聞かせるように、カナタに問いかける。
「でも王様。あんなお菓子見たことなかったんですよ。ちょっと食べてみたかったんです」
 真面目な顔をしてカナタは陛下に言いかえした。
「武官が近くを通ったのは運が良かったからだぞ」
「はい、助かりました。あ、王様、お礼言ってて下さい」
「自分で言いに行け」
「それもそうですよねー。じゃあ、あの人って何処にいるんですか?」
「兵舎じゃないか?」
「兵舎ってどこにあるんですか?」
 カナタは首を傾げる。陛下は延々と続きそうな問答に終止符を打つべく「後でそっちに寄越すか」と結論を出した。
「あぁ、あと菓子くらいならリシェルに出してもらうといい」
 目線を受け「分かりました」と頷きを返せば、「本当ですか!?」とやけに嬉しそうな声がすぐ傍で上がった。
「じゃあ任せたからな」と言って陛下は今度こそ立ち去った。後にはうきうきとしているのが傍目から見てもよく分かる少女。「では、行きましょうか」と彼女に告げると、カナタは「はい!」と元気よく返事を返し、足取りも軽く私の横に並んでついて来たのだ。



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