four o'clock  直球なる人々

 

 私、中村愛花は至って平々凡々な純日本人である。
 顔は、悪いとは言わないけれど、良いとも言えない。
 やっぱり、いたって平凡な顔の持ち主なのである。
 
 そんな私が大学から帰って来て、ちょっと昼寝でも、と思ってしまったことから、この平凡な暮らしは、正反対まで変わってしまった。寝てる間に一体何が起こってしまったのか、とにかく私はフィラディアルという、中世ヨーロッパみたいな異世界へと飛ばされてしまったのだ。
 
 着いた早々、人攫いに会いそうになったり、訳のわからぬ間に王宮へ連れて行かれたり、はっきり言って驚いた。そう、もう、驚いたとしか言いようがない。だって、他に適切な言葉が見つからないんだから。
 
 やっぱり突然の出来事に、帰りたいと思って、泣いてしまったこともある。
 うぅ、あの時のことを思い出すと、結構恥ずかしいんだよね。
 自分の感傷に浸りまくっていた私は、たまたま通りかかった王様に当たり散らしてしまった。
 それを、王様は黙って聞いてくれてたんだよね、うん。
 
 リシェルもたぶんいろいろ変なことを(って言っても、私の世界では普通のことなんだけど)言ったりしたりしている私に、変な目を向けることなく、フィラディアルのことをいろいろ教えてくれた。
 優しくて色白金髪美人の大好きな友達。
 それなのに、鈍感な私はきっと彼女のことをいっぱい、いっぱい、傷つけて、苦しめた。
 それでも、リシェルは私のことを「大好き」って言ってくれて、「戻ってこなかったら承知しない」と言ってくれた。
 大好きな、大好きな、とても大切な私の親友。
 
 あと一人、ランスリーフェン侯爵はなんだかよくわからない人だった。
 優しいし、面白いんだけど、なんて言うのかな、つかめない人。
 そう言ったら、王様は面白そうに肩を震わせながら笑った。
 彼曰く、ランスリーフェン侯爵は味方だったら最強に心強く、敵に回したら怖すぎる人物らしい。
 
 私は本当に幸運だと思う。
 フィラディアルに行けたこと、そして彼らに会えたこと。
 この奇跡ともいう偶然にすごく感謝してる。
 
 だけどね、ただひとつ、フィラディアルで困ったことがあった。
 純日本人の私にとって、彼らはあまりにも直球すぎたのだ。
 
 フィラディアルにようやく慣れ始めた頃、何度か訪れた庭園の中で隣を歩くリシェルが突然言った。
「アイカの鼻は小さくていいわね」と。
 皮肉か!? 皮肉なのか!? って思ったよ、もちろんね。
 だって、彫りの深いリシェルはスラリと高く形のいい鼻を持っていたし、対して私はリシェルが言う通り、小さくて、ぺちゃんこの低い鼻だからね。
 たぶん、私の顔ひきつってたと思う。
 でも、リシェルは綺麗な顔に微笑みを浮かべて、こう言ったの。
「アイカの鼻は小さいからとっても愛らしいわ」って……。
 悪気のかけらすら覗かない笑みを私に向けて、そう言ったの。
 その時の私の気持ち分かる!?
 もう、真っ赤になって、ぽかんとしてしまった。
 それに、リシェルはよく私のことを「可愛らしい」と言う。
 「可愛い」なんて小さい頃以来言われ慣れてない私はその度に真っ赤になる。
 そして、それを見たリシェルがまた「可愛い」と言いながらクスクスと笑うのだ。
 
 
 王様もそうだ。
 城下町に連れて行ってもらった時、襲われた時の記憶が蘇ってびくびくしてた私。
 しかも、なんだか道行く人みんなが私のこと見てるのが分かったから、不安になって王様を見上げたの。
 そしたら、王様はポンポンと私の頭を撫でて「大丈夫だ」と言ってくれた。
「アイカみたいな黒髪に黒い瞳はフィラディアルでは珍しいからな。皆驚いているだけだ」
「そうなの!? じゃあ、私が最初に攫われそうになったのもそれが理由?」
 驚いて聞き返した私に、王様は「そうだ」と、あっさりと頷いた。
 あの時は本当に項垂れたよ……
 あんなに怖い思いしたのは、そんなことが理由だったのかって。
 そして、呟いてしまった。
「あぁ、やっぱり、お金がないからって髪染めるのやめるんじゃなかった~」
「どうしてだ? そんな勿体ない事するな。アイカの髪は黒くてすごく綺麗なんだから染める必要ないだろう。そのままで充分美しい」
 はい、もう分かりますよね?
 そうです、王様の言葉に私が一気に頬を染めたのは言うまでもありません。
 
 
 文化の違いだって、分かってる。分かってるけど!
 誰か、この直球なる人々をどうにかして下さい!!
 私、心臓もたないから!!!
 
 
 いつかこの直球をかわすことができるだろうか、とすごく不安に思う。
 きっと、私には一生無理なんだろうな……。
 
 だけど――――――、だけど、今は、もう一度みんなに会いたい。
 
 遠い空の下から、そう願う。
 
 
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(c)aruhi 2008