from four o'clock  1:淡緑花の残り香

 

6話『相対す』と7話『偽無き本心』の間の話

 

「それは私に対する当て付けですか?」
 
 陛下とアイカのことがあり、ひきこもっていた私の部屋へやって来た男の無神経さに冷たい視線を送る。
 入って来たのは赤毛に橙色の瞳を持つ男。
 この国で国王に次ぐ権力者。
 ランスリーフェン侯爵。
 そして、彼が手にしている白いバラの花束こそが私の神経を逆なでした。
 
 白いバラ。
 その意味は純潔。
 
 陛下に触れられなかった私への皮肉ともとれるその花を持って彼は現れたのだ。
 
「別にそういう意味ではありません。この間、貴女が髪に飾っていた白いバラが綺麗に咲いていたので持って来てみたのです。気分が少しは晴れるでしょう」
 
「余計なお世話です……」
 
 この男の前で取り乱してしまった手前、最後まで強く言うことはできず、溜息へと変わる。
 
「あまりひきこもるのは良くないですよ?リシェル」
 
「……分かっています」
 
 彼は溜息をついて肩を竦めた。
 
「後で頼みたい仕事があるからこちらに運ばせよう。大丈夫か?」
 
「ええ……」
 
「リシェル」
 
「―――何でしょう?」
 
 首を傾げる私に、ラスリーが少し笑った。
 
「白バラには他にも意味があることを忘れるな。貴女には分かるだろう?」
 
 そう言って、ラスリーが扉へと消える。
 私はラスリーの言った意味を理解し、呆然と立ち尽くした。
 その隣では、ユージアが口に手を当て、クスクスと笑っている。
 
 白いバラの花言葉は、純潔、無邪気、心からの尊敬、そして、私はあなたにふさわしい。
 
 彼がどれを指して言ったのかは未だ知れない。
 
 
 
 
 
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