飾り紐の結び




「できたわ!」

 慎重に縒ってつくった飾り紐を手に、ユンフォアは少なくない満足感を覚えた。
 これで今年も、縁を来年まで繋げることができる。
 価値の釣り合わない麻糸と絹糸が、それでもどうにかこうにか寄り添いあっているのを目にして、心のどこかが、ほっとあたたかくなった気がした。
 二種類の糸は馴染み合わない分、どうしても不格好に見える。
 けれど、思いっきり力を加えて引きちぎらない限り、解けそうにはない頑固さが縒り紐には備わっていた。



 年末になるたんびに繰り返してきたせいか、縒り紐づくりはユンフォアにとってもうこなれたものだ。
 数本の彩糸を組み合わせて、紐になるよう縒っていく。家族と一緒につくるものとは別に、花園の屋敷でもつくるようになって、もう三年もたった。
 はじめの年に『今年繋いだ縁が来年も繋がっているよう祈る村の年末行事』だと教えたからだろう。カセンは、ユンフォアが村から行事用に糸を持ってくると、どこに用意しておいたのか絹糸を取り出してきてくれる。
 あますところなく染め上げられた糸は、見るからに高級品そのもので、肌に滑やかだ。本来ならば、縒り紐程度に使うものではない。あまりにも勿体なさすぎる、とユンフォアはカセンが彩糸を取り出す度に口うるさく言った。
 しかし、糸を縒り始めたユンフォアの指先をカセンがあまりにも物珍し気に眺めるものだから、結局、彼女は諦めて口を曲げると、大人しくカセンの糸を縒り加えるのだ。
 ついこないだ、ユンフォアは大人の仲間入りをした。思い返し、村の女たちが自分のことを同等に扱うようになった事実を噛みしめる度に、どこか歯がゆいような誇らしいような気持ちになる。かと言って、なる前となった後で、ユンフォア自身が何か変わったかと問われると、どこも思い当たる節はなくひたすら首を傾げるばかりだった。
 むしろ、変化があったというのならば、それよりもまだ半年も前の話だ。
「ユンフォアは本当に器用だね」
 出来上がったばかりの縒り紐を手渡されたカセンは、毎年のことにも関わらず、ほとほと感心したように鮮やかな紐を眺める。
 ユンフォアは、声を出さず笑った。
「カセンが雑なだけよ」
 見てくれの精緻さと丁寧な所作の割に、この男のすることは雑なことが多かった。あまりにも大雑把すぎると言っていくらいだ。とりあえず棚にしまってあればいい、という気質らしいカセンの手にかかれば、食器棚も書棚も到底見分けがつかないものに様変わりする。
「そうかな」
 カセンが首を傾ぐ。肩に添うように男の長い紺髪は流れた。
 ユンフォアはつい、と手を伸ばす。
 指を滑る彼の髪は髪は、羨ましいほど艶と光を弾く。絹糸に劣らぬほど美しく、だが、絹糸よりも硬質めいた温度のない紺髪は、ひんやりと彼女の指先に熱をもたらした。
 はたと、ユンフォアは睫毛を瞬かせて、そそと立ち上がった。
「……結ってあげる」
 咎められるような気がした。誰に、かは分からない。
 ユンフォアは、カセンの手の内にあった縒り紐を摘みあげると、目を合わせずにすむよう、俯いて男の後ろへ回る。
 つられて振り返ろうとしたカセンの頭を、ユンフォアは慌てて前に向かせる。
「前向いてて。じゃないと髪、結えない」
 ユンフォアは、問いを避けるように、カセンの髪を手櫛で梳かし始める。これだけ、指に通ればあえて梳きなおす必要はない気がしたが、とにかく手を動かしたかった。
 怪訝そうな顔をしているのだろうカセンの後ろで、ユンフォアは口を結んだ。
 梳いて、編む。
 それだけの所作に、どうしても戸惑いを隠せない。
 明らかに変わり始めた意識に、彼女はまだ戸惑っていた。