真冬日和


 しんしんと冷えきった空気が当然のものとなった季節。
 できればまだ閉じておきたい瞼を何とかこじ開けたロウリエは、のんびりと首だけを動かし、外の明るさを確かめた。
 リロリロと鳥の鳴き声が窓ガラスに吹きつける風の音に混じる。カーテンの隙間から、朝日を反射している雪が、黄金色に染まって温もりを帯びて見えた。
 ここらで起きておかなければ、そのうち誰かが起こしにくるだろう。ロウリエは、半身を起こして軽く伸びをした。
 と、背中にくっついてきた自分のではない両手を彼は困った風に笑いながら、手慣れた仕草で外す。
 外気にさらされたからか、カザリアは目を瞑ったまま、む、と眉根を寄せて、身を縮こまらせた。だが、それでは補えなかったようで、彼女は腕を伸ばしてはたはたと手をさまよわせる。
 ロウリエは自分が抜け出た分、ゆとりのできた毛布を彼女の腕ごと巻き込んで包んだ。その上から布団も被せる。彼が置きぬけた部分は温もりが充分であったらしく、巻き毛布の中にさらに潜り込んだカザリアは満足げに引き結んでいた口元を緩めた。
 どうやら彼の妻はとことん寒さが苦手らしい。秋の終わりから今日まで、就寝時はきちんと並んで寝ているにも関わらず、明け方になると大抵しがみつかれている。
 冷え込む以前の季節までは、むしろカザリアの方が早く起きててきぱきと動いていたと言うのに、寒くなった途端起きる素振りもないのだからとても不思議である。
「いやぁ、いつ見てもおもしろいですねぇ」
 ロウリエは、すっかり蓑虫と化したカザリアを見ながら、笑いを噛み殺す。
 揺らさぬようにこっそりと寝台から降りたロウリエは、昨夜の暖炉の火がすっかり消え失せた部屋で一度身を震わせ、続きの間へと足を進めたのだ。

***

「さむい」
 さむいさむいさむい、と額をじんじんと苛む冷たさに、目を覚ましたカザリアは、うぅ、と毛布の中に身を縮こまらせた。が、毛布に頭を隠そうとした彼女は、は、と動きを止める。
 まただわ、と彼女はひとりごちた。
「どうして毎回毎回起きたらぐるぐる巻きになってるのかしら」
 頭を捻ろうにも鼻より下が毛布に埋もれているせいか、あまり動かす隙間の残されていない頭は毛布の壁に阻まれてうまく動かない。
 やがて彼女を起こしに部屋にやって来た侍女のケフィが暖炉に木をくべて火を熾しだす。部屋が充分温かくなったのを確認してから、この日もカザリアはやっとのことで毛布を手放したのである。