そういえばそんな季節



「そういえば、前々から気になってたんだけど」

 有馬からの急な切り出し。
 奏多は、不思議に思いつつ、オレンジジュースをずずずーっと飲み干した。
「はい。なんでしょう」
 ショートケーキのイチゴにフォークを伸ばしながら、彼女はきょとんと彼に聞き返す。
「魔女子さんて、今何年生なの?」
「今更ですね」
「うん、今更なんだけどね」
 奏多は、イチゴを口の中に放りいれると、右の頬へと押しやった。片方だけぽっこりと膨らんだ頬は、小さな子どもが飴を舐めている様か、はたまたハムスターがひまわりの種を詰め込みすぎたかのようである。
「それって重要でしょうか」
「いや、重要ではないんだけど」
「三年生ですよ」
「……んん゛?」
 けろりと返ってきた答え。聞き違いだろうか、聞き違いであってほしいな、という有馬の懸念をよそに、奏多は、口の端で、はぐはぐとイチゴを食べ終え、ショートケーキの本体にとりかかった。
「三年生です。華の女子高生も、三年目」
「うん、華のなんちゃらは置いとくとして……やっぱりか」
 去年見た教科、一年のじゃないなと思ってたんだよね、と彼は溜息をつきながら、今まさにフォークが突き刺さる寸前だった、ショートケーキの皿を取り上げた。

「受験生が、のんきにケーキ食べてちゃダメでしょう!」





「大丈夫ですよ、全部に落ちない限り」
 だから、返してくださいと奏多は手を伸ばす。その暢気っぷりに、有馬はちょっと頭が痛くなった。彼女に付き合って、喫茶店に入り浸っている分、もし大学に全部落ちるなんてことになったら責任を感じそうである。
「ちゃんと勉強はしてますよ。けど息抜きは大切です」
「魔女子さんは息抜きしすぎだと思うけど」
「そんなことないですよ。一応ひとつは合格圏内です」
「ひとつだけじゃなくて、全部合格圏内を目指そうか」
「まぁ、それはそうだと思うんですけれど。そう思うので頑張っているんですけれど。私はどちらかと言うと学校よりも学科の方が重要だと思ってるので、どこに入ってもなれるところを選びましたし。後はどの大学に入っても、きちんとなれるように自分がそこで頑張るしかないと思うんですよね」
「なれる?」
「はい。私、給食のおばちゃんになるのが夢なんです!」
 きっぱりと宣言した奏多に、有馬は唖然とした。その隙に、有馬の手からそそくさとショートケーキの皿を取り返した奏多は嬉しそうに苺クリームが挟まれているスポンジへフォークを沈める。
「多分、パートでもできると思うんですけど、どうせなら栄養士の免許も取っておきたいんですよね」
 ぱくぱくとケーキを口に運ぶ奏多は、割と現実が見えているようである。
 ただ一つの現実を除いては。
 その現実を知っている有馬は、先にも増して神妙な顔つきになった。
「魔女子さん、それって本当に大丈夫なの?」
 何がですか? と奏多は不思議そうに問い返してくる。
 過去、黒焦げジンジャーマンクッキーと苦いだけのトリュフを食べさせられた有馬は、彼女の将来が本気で心配になった。