いきをとめる


髪に花をあしらう
着飾り気取るために
花を笑い散らす
驕りは尊敬にも似て

いつかは消えるだろうこの歌も
飛ばぬ花粉が種を残せぬように
回り続けぬ歌い手は
滅びを前に
留まる事を祈る


***


「ねぇ、やめて……」

 女はすすり泣いた。
 枯れていく喉の奥で、切れ切れに呟く。

「やめて、……いかないで」
「それは、今? それとも、ずっと?」

 対する相手は、微苦笑して、顔を覆い泣き続ける彼女の額をなでた。
 融通の利かない子どでも諭すような、穏やかな視線で彼女を眺める。

「ずっとは、無理だよ。君だっていつかいってしまうから」

 仰向けに寝そべったままの彼は、深く息を吸って、とりいれた空気をそのままに吐き出した。

「ならば、先にいきたいと思うから」
「ま、まだ見せたいものがあるの。見せたいものがたくさんあるのよ」
「だけど、旅を続けぬ僕らは死んでしまうから」
「――今。なら、今だけでいいから」

 彼は、目を細めて、彼女を見やる。淡い赤みがかったひと房を手にとった。どんな染料を使ったとしても、これほどまでの色は出せまい。彼女の髪色は夕日が残す最後の澄んだ残り日によく似ていた。
 大きな黒い眼からは、はらりと雫がこぼれおちる。もしも、ここが水の中だったのなら、彼女の涙は綺麗に溶けたのだろうと、彼はぼんやり考えた。そうだったらいい、とも。

「今は、もう過ぎてしまったね。だから、もういくよ」

 彼は、彼女の髪から手を離す。
 女は、よりいっそう声を上げてむせび泣いた。
 心地よい心地よい声だった。
 まるで、泣くことしかできない彼女の声は、彼の世界にどこまでも響いた。
 そうして、彼は、その日、ついに目蓋を閉じることになったのだ。

 なぜなら、彼はもう幾日もその場所に留まっていたのだから。
 もう充分長い間、その場所にとどまっていたのだから。