高い高ーい塔の上。
 街中に時を知らせる聖堂の鐘塔よりもまだ高く、街のどこから見ても必ず頭一つ飛び出ている塔の上。
 高い塔の最上階、ただ一つあるその窓に、ぽとりと光が灯っているのを、ハイデルは寝台によじ登る途中に見つけました。
(……ランチェル、まだ起きてる)
 塔の上に住んでいる友人の少女は、たった一人で、今、何をしているのでしょうか。
(昨日は、本を読んでたって言ってた)
(その前は、歌を歌って)
(その前は、魔法をつくって)
(その前は、星座を変えて)
(その前は、街中の大根を引っこ抜いてゴーテル婆さんに怒られていた)
 窓から暗い夜空に顔を出して、くるくるくうるりと突き出した指を回す少女を、ハイデルは寝台に潜りこみながら思い浮かべました。
 思わず込み上げてきた笑い声を、ハイデルは口に毛布を押し当てて、なんとかやりすごそうと努力しましたが、結局のところは無駄でした。
 うるさいぞ、と飛んできた隣の寝台で寝ている兄さんの小言に、ハイデルは息を止めて答えます。
 ――――夜がいっちばん、つーーーまんないのっ!
 ぷぅ、と頬を膨らませてそう言った友人は、いつだってハイデルが塔から降りて帰っていくのをいつまでもいつまでも見送ってくれます。
 明日、また会いにゆく友人が、今、何をしているのかが楽しみで、気になるところではありますが。
 ハイデルは、もう一度だけ、部屋の窓から灯りに目をやって、瞼を閉じました。
(どうかランチェルが寂しくないように)
(きっと、いい夢を。楽しい夢を)
(おやすみ)
 朝一番に目を覚まして、家の仕事を終わらせて、早く早くゴーテル婆さんの家へ手伝いに行けるように、ハイデルはこの日も眠りにつきました。