『契約誘拐』 水面 様



「・・・で、なんであたし監禁されてんの」
「第四条、理由を問われようと気にすんな。だそうですよ?」


* * * * *


遡ること十数分。何故かあたしは友人に拉致られた。
普っ通にコンビニに寄った仕事帰りでした。ワゴン車の後部座席に引き込まれ、ロープで自由を奪われ、頭を打った挙句「ちょっとドライブね〜♪」とか。
平然と犯罪するなと。文句を言いたい訳で。うん、なんだこれ。

突然の誘拐から約三時間が経過しようとしている。
トモコが契約書とやらを雑誌感覚で読んでいるとアキが帰ってきた。
「おっかえりー」
「で?契約書って何書いてあんの?」
「んー?至極一般的なモノですよ?外に出しちゃダメとか」
・・・いやいや、一般的にもほどがあるって!!それ暗黙の了解じゃないの?意味わかんない、OLの貴重な休み返してくれ。
「あ、ミワ疲れちゃった?だろうと思って、じゃーん、デザート買ってきたー」
ロープ外すね、と言いつつアキは目の前に様々なお菓子を出した。被害者が言うのもなんだけど、のんびりし過ぎじゃない?新ジャンルなのかな、のんびり誘拐。

「トモコー・・いつになったら帰してくれる?」
「えーっとね、連絡が来たら帰してくれるらしいよ」
そんなアバウトな。いや、その前にアキ、ちょっと待った。
「こっそり手札を変えるなー!」
「あは、ばれちゃったー?ごめんごめん」
現在、犯人と共に絶賛ポーカー中。
「なーんか・・・もうどうでもよくなって来ちゃった・・・」
「夜は始まったばかりですよ?」
夜が始まろうが終わろうが、あたしの範疇にはないよ。そんな事を思ってたら、トモコの携帯が鳴りだした。
「もしもーし?あ、わかった、じゃあ準備させるわ。バイバーイ」
あの、準備って?もう夜の十時ですよ?普段だったらあたし、健康優良児だから寝てますよ?皆さんもう寝ませんか?


* * * * *


「あい、出来たっ!」
背中をぺしりと叩かれた。地味にダメージ。
どういうことかあたしはカクテルドレスっぽい服を着せられて、これから寝ますという時間なのにバッチリメイクで立っている。
ドレスが着れるって中々無いから嬉しいけども。あたしはどこかに連れてかれるらしい。

連行される行く先は、最近出来た高層マンション。十三階、一三〇六室。流石、いい眺望。部屋の入り口に置いてけぼりにされたあたしは、ぼーっと突っ立っていた。
かちゃり、とドアが静かに開いた。
中にいたのはそれなりに付き合いのある先輩で。まさか、と思う。ああ、やっぱり、とも思う。

室内はシンプルに飾ってあって夜景の見える位置にテーブルセットが備えられていた。
「誘拐を依頼したのは先輩、ですよね」
「うん、否定しない」
「ここは先輩の部屋ですか?」
「それも否定はしないよ」
しばし、沈黙。でも、気まずくはない。
互いに今流れている物を感じ取って、落ち着いてるだけで。
「ミワちゃん。俺とここで暮さない?」

予想通りの言葉に対して、深呼吸をする。
「誘拐して、監禁、というか軟禁ですけどしておいて、よくそんな事が言えますね。あたし立派な被害者ですよ?訴えることも出来ます。何考えてるんですか。いい大人が」
先輩は苦笑いしかしない。そうやって、大人ぶってる所が嫌いなんだ。
「先輩の言う事は聞けません。yesとは答えません。その代わり、」
真っ直ぐで真剣な目に飲まれそうになるけど、しっかり言ってやる。
「あたしを落としたら。考えなくもないです」



―――こうして、誘拐から始まった恋愛。たぶん、他の誰もそんな始まりはしないだろう。

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