水面 様



東から馬車が来る。
四頭の毛並みの良い馬たちは正方形に並び、小気味の良い音を蹄で立てていた。
目指す先は争いの後にできた平和を象徴しようとする国。



馬車の中で男は魔の力で小さな明かりを灯す。青とも白ともつかぬ光が男の顔と手に持つ封書を照らした。
もう一人の若い使いが尋ねる。封の刻印は何を意味するのかと。


* * * * *


かつて、陸は、空は、海は。すべて一つだった。
かき混ぜられた世界でただ一人の老人が生きた。老人はその躯に似合わぬ大剣を携えていた。老人は空を切り、陸を切った。弧を描いた剣は役目を終え、大陸の核となった。


隔てられたそれらはやがて個々に独自の生態を成していく。
海は波を呼び、空は風を孕み、陸は大地を伐り出した。


誰かが言った。始まりの剣は世界の果てにあると。
誰かが言った。世界の果てには絶望があると。


それが嘘か真か、知る由もなかった。
けれど人々は探した。己に欠けた何かを求めるように。


果てには何があったのか。そして剣は何処にあったのか。真実を知る物はいない。


* * * * *


その後、大陸には老人の遺体を納めた国が現れる。
王家を名乗り、支配し、蹂躙した。
その国は今や跡形もなく消え、とある騎士団が民を束ねた。



その証が老人と剣であるのだと男は言う。
若い使いは何か納得出来ないようで不服気に首を傾げた。
しかし、男は言う。


刻印は歴史の為にあるのではない。誇りであると。

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