水面 様



ここは。「中二病制御病棟」

【中二病】(ちゅうにびょう)とは、思春期の少年少女にありがちな自意識過剰やコンプレックスから発する一部の言動傾向を小児病とからめ揶揄した俗語である。伊集院光がラジオ番組『伊集院光のUP'S』の中で用いたのが最初と言われている。「病」という表現を含むが、実際に治療の必要とされる医学的な意味での「病気」または「精神疾患」とは無関係である。

以下は『オタク用語の基礎知識』内の中二病の項目内で紹介されている症例の一部である。

洋楽を聞き始める。
うまくもないコーヒーを飲み始める。
売れたバンドを「売れる前から知っている」とムキになる。
やればできると思っている。
母親に対して激昂して「プライバシーを尊重してくれ」などと言い出す。
社会の勉強をある程度して、歴史に詳しくなると「アメリカって汚いよな」と急に言い出す。
など。

ウィキペディアより引用。


「はい、あとさんにーん」
「まだいるのかよ・・・・」
心の底辺から吐き出した溜め息は行き場を失ったまま宙に溶けた。
気前のいいオバチャン、とキャッチコピーが付きそうな看護師を一人のみ控えたこの場所は一種の亜空間、否、異空間と看做されており、通常患者以外はあまりお近付きになりたくない場所堂々のNo.2である。蛇足だがNo.1は無論霊安室だ。
病棟など形だけで、要は使わなくなった倉庫を改造した簡易的な物で。『病棟』なんて見栄を張ったような名前にもほとほと嫌気がさす。


さて、今日十二人目の患者だ。
「何でこんなとこ、来なきゃいけねーんだよ!クソババア!」
随分威勢がよろしいようで。俺のガラス的マインドが壊れないか些か心配になる。
「普段はこんな子じゃないんですけど・・・。火を見ると興奮し出して、手に負えなくなるんです」
なるほど、多重人格パターンか?
「君、名前は?」
「チッ、エンだよ」
おいおい、舌打ちすな。まぁ、カルテと名前が違うということで、前記のパターンらしいな。
「なぁ、エン。風花ちゃんを知らないか?」
待ってましたとばかりの顔。こういう、好戦的な奴は嫌いじゃない。・・・女の子だけど。
「あいつ、いつもオレを抑えるんだ。うざったくてしょうがねぇ。あんな奴よりオレの方がいいだろ?」
「そうだな、そうかもしんねーけど、その体からさっさと出てった方が手っ取り早くね?」

母親が口出しを看護師、笹岡さんが止めてくれた。指さす先には「保護者私語厳禁」の張り紙がある。うん、俺だって眼の前でこんな会話してたら突っ込むわ。けど、こうして真面目に話を聞く以外の解決方って中々見つからない。
ふと、エンが口を開いた。
「オレだって早く抜け出してーよ。だけど、それが出来たらとっくにやってるっての」
「出れない理由は?」
「こいつから出るとオレが消えちまうんだよ」
うーん、ありがちな話で少しがっかり。まぁがっかりも何も無いのだが。


そんなこんなでエン、風花ちゃんとの診察は終わった。最後の方になると、かなり満足したようで落ち着いて話してくれた。
「にしても怖いっすねー。あ、笹岡さんコーヒーお願いします」
「はいはい、で?何が怖いの?患者が増えた事?」
「いや、それは予測済みで。ここ、見てもらえます?」
俺が指したパソコンの画面にはうちの病院のホームページが映されている。「中二病」もしくは「子供 異常行動」とフリーワード検索をかけると俺が作ったページへジャンプする。
大きく取られた場所には【あなたのお子さん、オートマティックにしませんか?】と打ってある。
「これでここ最近増えたんですよ。子供より親の方が、よっぽど怖いと思いません?」
「あら、いいわね、この広告。私は最初からそう思ってたけど・・・より具体化されたとでも言うべきかしらね」

笹岡さんは、やはり話の通じる人だと思った。確かに異様な子供たちと話す時、少々不安も感じるが、いいではないか、と思うのだ。
これはこれで想像力の結果なのでは?、と。
その芽を潰すのは実に惜しい。

だから俺はここにいるのだ。彼らの想像力の断片を破壊することなく満たす為に。
思ったことはないだろうか。ゴミ箱に向かってティッシュをシュートする時。『これを入れないと俺は死ぬ』的なモノが誰しもあったんじゃないだろうかと、俺は思う。
それの延長線だと思えば、中々に楽しい職種だと感じる。
そんなワケで、俺は明日も中二病観察を続けるのかもしれない。

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