miz 様



はじめて彼女と目が合った瞬間、

運命。

僕の頭にそんな言葉がよぎった。

「よろしくね。千歳くん。」

「・・・・・」

突然のことで返事をできずにいると彼女は何も言わず笑顔で席に着いた。

ひとめぼれ、とはこのことをいうのだろう。

全ての血液が上昇して顔を真っ赤にした。

心臓が早く脈打って心音が外に漏れるんじゃないかと脅えた。

クダラナイと馬鹿にしていた現象を自分が体験をするのだなんて考えもしなかった。

こっそり彼女の横顔を盗み見る。ドキドキした。

僕は馬鹿じゃない。

だけど、完全に恋だと悟った。

膝をつくふりをして顔を覆う。

信じられない。

目をぎゅっとつむると先ほど彼女が向けてくれた笑顔が浮かぶ。

中学3年にあがってからはじめての席替えで森永ひなと隣になった。

このクラスになって数ヵ月になるが今まで一度も話したことがない。

クラスメートに興味がなかった。というより人に興味がなかった。

だけど森永は背は小さいが明るくて存在感のある女子だった。

でもそれだけだ。存在は知っている、というだけでちっとも興味なんてなかった。

一生、僕みたいな人間は恋なんかせず孤独に死んでいくのだと思っていた。

それからも森永は気さくに声をかけてくれた。

他のクラスメートも最初は声をかけてくていたが打ち解けないと気づくと声をかける者などいなくなった。

だから森永もいずれ僕に飽きていくのだろうと思っていた。

(恋に落ちたからといって僕がおしゃべりになるはずがなかったのだ。)

「今回のテストで満点を取った奴は千歳以外にもいます。」

理科の授業で先生は当たり前かのように僕を名指しにする。

それが生徒にとってどれだけ嫌なことなのかこの先生は考えもしないのだろうか。

そのことで陰口を叩く馬鹿な人間もいる。

僻みだろうと気にはしないが煩わしいのだ。

そして先生は教室をわざとらしくぐるりと見渡すと森永を指さして「森永ひな!」と大声で叫んだ。

森永は「うそっうそっ」と小さく驚いていた。

そして僕のほうをみて「やったね!千歳くん!」と目をまん丸にして笑った。

「やだー!嬉しい!ありがとう、先生。」

「いやいや君が頑張ったんだよ。」

先生が手を叩くとクラス中が「よかったね。」と笑って森永に拍手を送った。

僕に一度も送られたことのない喝采だった。

それだけ森永ひなという人物は他人から愛される人間なんだと、僕とは正反対の人間なんだと改めて実感した。

彼女への気持ちを自覚してからいつの間にか目で追っていることには気がついていた。

それから何度か森永が他の男子生徒から愛の告白というヤツを受けていたことにも気がついていた。

森永はたくさんの人を惹きつけるそんな魅力をもった人間なのだ。

理科の先生は「満点を取ったふたりは今日中にみんなのノートを集めて下さい。」と理不尽な命令をした。

生徒の気持ちも考えない面倒なことも押しつける教師に向いてない人だと思った。

だけど森永となら嫌なことも少しは嬉しかった。

放課後、クラス全員分のノートを森永が集めた。(僕が言っても集まらないのだ。)

そこでも森永はクラスメートから「おめでとう」と言われ照れながら笑っていた。

「31、32!よし、全部だね。」

「僕が職員室に持って行くよ。」

「え、でも・・・」

「森永は部活に行きな。」

「・・・ありがとう。」

「・・・・・」

「・・・ねぇ、千歳くんはどこの高校を受験するか決めた?」

「え?いやまだだけど。」

夕日で赤く染まった教室で僕と森永はふたりきりだった。

彼女の横顔をみるととても綺麗でドキドキした。

僕が彼女に恋をしていることを悟られそうで集めたノートに視線を落とした。

「あのね。あたし・・・、時雨ノ森高校に行きたいんだ。」

「そ、そうなんだ。」

「・・・千歳くんも、行こうよ。」

森永は小さくつぶやき僕は驚いて咄嗟に森永をみた。

彼女と一瞬目が合ったがすぐに視線を逸らされた。

僕は森永が受ける高校を聞けたことに内心喜んでいたが次に言われた言葉を理解できずそのまま思考が停止した。

すると彼女は突然立ち上がって「じゃあね。」と言って乱雑にバックを持ち教室から飛び出して行った。

教室から姿を消すと廊下から走る音が聞こえた。

夕日に照らされていたこともあるが彼女の顔が真っ赤だったような気がした。

僕の心臓ははち切れそうなほどドキドキしていた。

たぶん今僕の顔は森永に負けないほど真っ赤になっている。

森永にとってその言葉はどういう意味を持つのかは解らない。

とりあえず頭を冷やそうと窓を開けると後ろで扉にぶつかったような大きな音がした。

振り向くとそこには森永がいて息を切らしていた。

「あ、あのさ!」

「・・・う、うん。」

「あの、千歳くんのこと名前で呼んでいい?」

森永は哀願するような顔で訊ねる。

僕の頭はまだこの出来事についていかなくてうんうんと頭を上下にふり、やっと「う、うん。いいよ。」と振り絞った。

すると森永は返事を聞くといつもの明るい笑顔になり「一意くん」と慣れない名前を呼んだ。

そしてまた廊下を走り去って行った。

運命。

僕の頭にもう一度そんな言葉がよぎった。

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