それは本当に偶然のこと。回廊の窓辺近くで話をしていた二人はぴしりと固まった。
「ら、ラスリー、あれって」
「リシェルにも見えるってことは、間違いないんだな」
 目撃者二人は互いに目を合わせる。非常に気まずい空気の中、どちらともなく苦笑いをとりつくろった。



「というわけなので見てしまいました。すみません」
 何を、と聞くまでもない。真向かいでティーカップを手にしているリシェルの告白に、カザリアは顔を真っ赤にして口をわななかせた。
「カザリアはいつもはぐらかすから。仲がよいことがわかったので安心し」
「いやぁーいやぁーいい、わかった、もうそれ以上言わないでっ!」
 カザリアは、手で顔を覆って、椅子の背に突っ伏す。
 カザリアの気持ちも分からなくはないエリィシエルは、困ったように眉を下げた。
「そうですね。帰る途中だったのしょうけれど、庭園は見えなさそうで案外、回廊からは見えるので気をつけてください」
「リシェル。それはもうちょっと早く言ってちょうだい!」



「というわけで、見えた」
 ランスリーフェンから報告を受けたロウリエは、きょとりと目をまばたかせた後「そうですか、すみません」と笑った。 
「いや、別に謝る必要はないが」
 正直、恐ろしいものを見た、とランスリーフェンは昨夜の出来事を思い出して思う。
「あんな大人しそうなカザリア初めて見た」
「そうですか? カザリアさんはいつもあんな感じですけどね」
 ロウリエは、穏やかに首を傾げる。
 ランスリーフェンは、それ以上つっこむのはやめて口をつぐんでおくことにした。