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○年後のおまけ


 こんこんこん、と扉を叩く。「どうぞ」と中から響いた招き入れに、私はほんの少し扉を開けた。
「ロウリィ、ちょっといいかしら?」
「ちょっと待っててください。これを置いたら行きますから」
 ロウリィは大きな木箱を窓の下の辺り、部屋で唯一ぽっかりと開いている空間に置いた。恐らくあの箱の中に入っているのも薬草の類なのだろう。
 雑然と散らかっている部屋の中には嗅ぎ慣れた薬草の香りが広がっている。ここに薬草がなくったって、壁紙自体に薬草の匂いが染み込んでいる気がした。きっとそうに違いない。今度嗅いでみようかしら、とこっそり心に決めた。
 床に散乱している機材やら箱やらを避けて、ようやく部屋の入口までやって来たロウリィは「お待たせしました」と息をついた。
「なんだか廊下にまで薬草の袋が溢れているのだけど。確か昨日はなかったわよね?」
「あぁ、それは今日買ってきて、ルカに運んでおいてもらったんですよ。中にしまう隙間がなかったので、ちょうどよい機会だから整理しようと思いまして」
「それで、この状態なのね」
 むしろますます散らかっているのじゃないかしら、という惨状に目を向ける。肩越しに中を見やったロウリィは疲れ果てたように苦笑した。
「いつかは終わりますよ」
「少し手伝う?」
「スタンたちもそう言ってくれたんですが、一人でしないとどこに何を置いたのかがわからなくなるので」
「ふうん。まぁ、ほどほどにしておきなさいよ」
「ほどほどにしておきたいんですけどね。明日起きたら体中痛くなってそうで、考えるともうから嫌なんですよ」
 ロウリィは溜息をつきながら肩を落とす。
「それで?」
「え?」
「何か用があったのではないんですか、カザリアさん?」
「あ、そうだったわ」
 私はポケットにしまい込んでいた小さな包みを取り出す。
「さっき渡しそびれていたから」
「開けても?」
「ええ」
 ロウリィの問い掛けに、私は頷く。
 包装紙から出てきたのは、緑の色ガラスでつくられた葉が飾りつけられてある髪留めだ。今日街に出た時に買っておいたものだった。
「やっぱり女物しかなかったんだけど。家で使う分にはいいかと思って。この間、火が付きそうだったのよ、前髪に」
 私は自分の前髪をとんとんと指差す。
 この間と言っても、前にこの屋敷に来た時だったから、もう一年も前になるけれど。あの時、薬作りの研究をしていたロウリィは、鍋の火加減の調節をしていたのだろう。かがみこんであまりにも火に近かったから、髪に火が燃え移りそうでひやひやしたのだ。
「気をつけて」
「あぁ。ありがとうございます」
「ありがとうございます、じゃなくて、火にあんまり近づかないようにしなさいって言ってるのよ」
 彼に向かって指摘すれば、ロウリィはぽやぽやと笑う。
「そうですね。ちゃんと、気をつけます」
 再度、「ありがとう」と重ねられて、私は押し黙った。
 窓の外、陽が落ちたばかりの空は、まだ明るく薄い青が残る。
 エンピティロでの新たな日々は、まだはじまったばかり。