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 多くの貴族の結婚が家同士の政略的な結託の結果であるように、私――カザリアの場合も例に漏れず、そうであった。

 テーブルの向かい側。目の前の席に座っているのは今日から私の夫となった人物。
 ロウリエ・アジ・ハルバシン・ケルシュタイード。
 王宮に出仕しても何らおかしくないほどのケルシュタイード家の跡継ぎである彼。
 実際、彼の家は王宮に出入りしている者がほとんどであるのに、なぜか一地方領主として納まっている彼。
 両親は何をもってして私を彼に嫁がせたのか。
 家柄だけなら、他にもっと選択肢があっただろうに。
 そうしたら、少なくとも王都から離れなくてもよかっただろうに。
 ええ、わかっていますとも。こんなことを言っても最早意味がないと。

 皿の上に盛られている焼き菓子に手を伸ばす。
 さくりと音をたてて口の中で崩れた菓子は、香ばしく、ほどよく甘い。
 姿絵で見ていた通り、彼の顔は丸かった。
 もう少しかわいく言えば、ぽっちゃりとしている。
 薄い蒼の瞳はくるりとしているが、実際のところ、笑む度に細められていてほとんど見えない。
 だからと言って、私は自分の夫に対する文句を言っても仕方がないのだ。なぜなら、これは政略結婚なのだから。
 見た目同様ぽやぽやとした彼は口元にほややんと満面の笑みを浮かべる。
「いやあ、カザリアさんは僕には、もったいないですね。とてもおきれいです」
「それは……お褒めにあずかり光栄ですわ、ロウリエ様」
 とりあえず私も笑みを返して、今度は花茶の入ったティーカップへ手を伸ばす。
 形だけの結婚式を終えた後、やはり、形だけであるはずだった愛のない初夜。
 なのに、なぜか私たちは向きあって座り、いつの間にかお茶会へと化していた初夜をのんびりと過ごしている。
 別に不服があるわけではない。むしろ私にとっては都合がいい。
「ああ、カザリアさん。それは飲まないほうがいいですよ?」
 困ったような制止の言葉に、私は素直に手を止める。ただ、訳のわからぬ制止に首を傾げて。
「それ、どうやら毒が入っているようですから」
「は?」
「お茶に毒が入っています。えっと、ほら、このお茶の表面、なんだか反射の仕方がいつもと違うでしょう?」
 固まった私に彼は説明を繰り返す。
 私が欲しかったのはそんな訳のわからぬ説明ではなかったのに。
「そうだ、カザリアさん! 武術は使えますか?」
「武、術ですか……?」
 彼はコクリと頷く。否定する様子など微塵もなく、「ええ、そうです」と、よく言えば何ともかわいらしい笑みさえ浮かべて。
「僕はちっとも使えないんですよ。だから、申し訳ないんですけど、カザリアさんに何かあっても僕は助けられないと思います。もし、カザリアさんに武術が使えるのなら、逆に守ってほしいくらいです」
「………」
「だから悪いんですけど夜は僕と一緒で我慢してくださいね。警備上、二人まとまっていたほうがまだ安全ですから」
 彼はほややんと微笑みながら、まるで何事もなかったかのように焼き菓子を口の中に放る。
 これが、絶句せずにいられるでしょうか。
 お父様、お母様、あなた方は一体私に何がさせたかったのでしょう?
 全く理解できません。

「――今すぐ実家に帰らせてもらってもよろしいでしょうか?」

 切実な私の願いに、彼はただ朗らかに笑って言った。「とりあえず、今すぐというのは無理じゃないでしょうか? だって、もう夜ですよ? もし帰るのなら明日、日が昇ってからにした方がいいと思います」と。

 もう、本当に訳がわからない。
 とりあえず泣いてしまってもよろしいでしょうか?