「――カザリアさんっ!?」
「ロロロロロウリィ!?」
 ロウリエは、寝室の扉を開けて驚いた。だが動揺しているのは、部屋の中、鏡台の前に座るカザリアも同じらしい。そういえば、ノックをし忘れたかもしれない、とロウリエは手を置いている扉の取っ手を見る。
 あまりの彼女の当惑っぷりに、一度引き返した方がいいだろうかとも思ったが、彼は結局部屋に入ることにした。
 取っ手から手を離せば、扉は軽い音を立ててぱたりとしまる。 
「どうしたんですか、それ」
 ロウリエが問うと、彼女は居心地悪そうに目線をそらした。
 目と口周りを残して、すっかり白で塗りつくされている顔。離れた所から見ても奇妙だったが、近くで眺めてみても奇妙さは変わらない。
 まるで降り積もった雪の上に、顔面から転倒してしまった後のようだ。
 いらぬところを見られてしまったと、カザリアは心中でひとり溜息をついた。あんまり不思議もあらわにまじまじと見られると、非常にいたたまれない。とうとうカザリアは、「ヨーグルトよ」とやけっぱちにつぶやいた。
「ヨー、グルトですか?」
 そうよ! とカザリアは、ロウリエを見上げる。
「たくさんできたからと言って、屋敷まで持ってきてくれたのよ」
「ですが、ヨーグルトって食べるものでは」
「そうだけど、こうしたら、肌がすべすべになるのですって」
「へ、へぇー……」
 一応納得を示しながら、ロウリエは改めてカザリアの真白に覆われた顔を見た。女性って変なことするなぁーというのが、正直な感想である。
 ロウリエは試しに指で頬のあたりの層を少し掬ってみた。途端、ぎょっとした面持ちになったカザリアには一向に気付く様子もなく、彼は指先についた白い半固形物を確かめる。本当に変哲のないヨーグルトらしい。
「ヨーグルトですね」
「だーかーらー、さっきそう言ったでしょう!?」
「あ、はい、そうですよね」
 すみません、とロウリエは取り繕う。
 そうして、彼はぽけらと首をかしげた。
「してもあまり意味はないと思うのですが。ヨーグルトなら、みんなで食べた方が有効的じゃ…………いっ!」
 ロウリエは、踏みつけられた足の痛みにうずくまった。
 カザリアはというと、憤然とした気持ちで、早々にタオルで顔のヨーグルトを拭ってしまうことにしたのだ。