「うわっ!」

 ロウリエはきらきらと目を輝かせた。

「すごいっ! すっっっごく綺麗ですね! こんなに美しいもの生まれてこのかたお目にかかったことがありませんよ。形と言い香りと言い、非の打ちどころがありません。特に、この艶! ほのかな照り返し加減が、月光を集約したようです。このくらいがいいんですよ。まさにこのくらいなんですよ!」

 でしょうでしょう! と行商人は満面の笑みで、ロウリエの前に薬草の詰め込まれた箱を差し出した。
「ほんっとなかなかないよ。今年は、気候が最適だったってだけだからね」
「ちょっと、ここまでいいと、これ全部乾燥させるの勿体ないですよね。やっぱりいくらか生のまま刻んで使った方がいいかな。あと、瓶付けと……そしたら、むこう3年間は持つとして」
「さっすが、領主さま、よくわかってるぅ!」
 ふむふむと真剣に考え込んでいるロウリエの肩を、行商人はばしばしと機嫌よさそうに叩いた。
 うぅー、ぬぅー、んぅーと葉を一枚ずつとっては、ロウリエは吟味する。
 と、突然彼は葉から視線を上げ、振り向いた。
「カザリアさん! カザリアさん!」
 さて、きらきらと期待に満ちた目を向けられたカザリアは、呆れたように溜息をついた。
「あー、はいはい。そうねー。よかったわねー。嬉しいわねー。別に私に聞かなくても買っちゃえばいいでしょう! 買っちゃえば!」
「――こないだ買いすぎだって怒ってたじゃないですか」
「わかったわよ、私が悪かったわよ。いいんじゃない、買っても。ロウリィはみんなに還元するんでしょうし」
「いいんですか!」
「だって、もう一時間もそうしてるじゃないのっ!」
「じゃあ、これ全部買いますので!」
 ロウリエは、ぐっと拳を握りこんだ。今日選んだ十種類ほどの薬草を、箱ごと屋敷に運び入れてもらう。
 うきうきと薬草に思いをはせているロウリエの横で、「葉っぱの違いなんて分からないわよ」とカザリアはぼやいたのだ。
 ちょっとつきあってみようと思ったせいで、カザリアは足がしびれた。