年代わりの鐘


 新年早々べっこりと凹んでいる地面にゴーテル婆さんは溜息をついた。
 一体今度は何を落としたのか。水の溜まった穴の端に溶けかけた氷粒が残っているところから考えて、巨大雪玉か巨大氷片のあたりだろう。
 茶けた地面が目立つ中で、きらきらと朝日を反射しながら溶けていく氷は美しい。なぜこんなことになっているのかなど、その原因を考えさえしなければ。
 さて、どうやってこの巨大な穴を埋めようか、と思案していたゴーテル婆さんは、新年早々手伝いにやって来た青年に気付いて軽く手をあげた。
「ハイデルかい」
「はい。今年もよろしくお願いします。って、うわ。今日もすごいですね」
「まったく。塔から出した後がもうから思いやられるよ」
 あぁー、と唸りたい気持ちを、ゴーテル婆さんは願望に変えて人の良い青年に提案する。
「いっそ、ハイデルがあの娘を嫁に貰ってくれないかねぇ」
「む、無理っ! 無理無理無理無理!」
 絶対無理! と、ハイデルは顔の前でぶんぶんと手を振って辞意を示す。
 途端、首根っこを摘みあげられ、足が地を離れたかと思うと、青年の身体は急激に空へ向かって上昇していった。
 上空の冷風が頭を嬲る。遥か真下では、ゴーテル婆さんが腰を逸らせてこちらを見上げたていた。
 叫び声を上げる暇すらなかったハイデルは、目の前に現れた娘に顔を引きつらせる。
 くいっ、と人差し指を上向けたまま、窓枠に頬杖をついている彼女は、にっこりと首を傾げた。
「どういう意味か説明してもらいましょうか」
 ハイデルを引っ張り上げた張本人であるランチェルは馴染みの青年を宙にぶら下げたまま、彼が育ての親へ即座に返した言葉の真意を問うた。
 彼にとってはいつも突飛なことをやらかす娘。どうしてあれがこうなったんだ! と、ハイデルは思ったとか思わなかったとか。