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「なんじゃ、またお主か」
 膜のはった丸い瞳が、落ちてきた娘を捉える。
「難儀なことじゃ。とうとう水底まで来おったか」
 寄ると、ほどけ出した化粧が水を濁らせていた。
 水かきのある手で残りの白粉を拭いとる。
 あらわになった娘の頬にはまだ赤味がさしていた。
 もう幾年も前から、度々池に現れては上澄みをさまよっていた娘。
「じゃが、これではちぃとも目が見えぬではないか」
 自分にはない柔らかな閉じ瞼を、撫ぜて「愚かな」と呟く。
「こんなことならば、さっさと魚にして喰ろうてしまえばよかったわ」
 深い水底には、水草の森が広がる。
 
 ぽこぽこと生れ出る水泡を、水草は一粒も手離すことなく一身に纏っていた。