それは、もう、叶わぬ願い。
だから彼らは、彼らの願いを息子に託した。
乳母であったメレディは語った。母が残した言葉の全てを。
一体どんな母だったのか。彼女の記憶は全くない。
それこそが彼女の願いの一つであったのだと、聞かされて初めて芽生えた気持ちは、果たして愛情と呼べるほどのものであったのだろうか。
母は言っていたそうだ。ケーアンリーブを離れる最後の夜に。
「自分の代わりにずっと父を傍で見ていて欲しい」と。
「彼をずっと傍で支えて欲しい」と。
父は言った。
「愛しいと想う人ができたならば、絶えず傍に居ろ」と。
王としては有り得ぬ言葉。
だが、父は苦笑する。「俺にはそれが叶わなかった。トゥーアナはあっさり逝ってしまったから」と。
「だから、ラルー、お前は絶対に叶えろ。これは王としての命令だ」と。
そんなものがあってもよいのかと、父王の命に、ただ、ただ、呆れる。
けれど、父の言葉に反して、父は確かに母と年を重ねたのだと。そう思ってしまうのは、ふとした瞬間に彼が浮かべる穏やかな笑みのせいなのだろう。
それは、誰に向けられたものでもない。
時折、窓の外を見上げ、彼はふっと微笑む。
そして、彼は眠りについたのだ。
吟遊詩人につくらせた、彼と彼女の歌と共に。
願い事 End.
(c)aruhi 2008