「ならば、ガーレリデス様」
上半身を起こしているトゥーアナはこちらを見下ろして、どこか楽しそうに微笑した。彼女の肩から、さらりと長い髪が流れ落ちる。かすかに当たった毛先がどうしようもなくくすぐったかった。
ほのかに翳を帯びた透明な一対の紫に吸い寄せられる。
おぼろげな月光だけがつくりだす輪郭のない陰影は、むしろくっきりとトゥーアナを浮き上がらせて、彼女の存在を主張する。
ただ淡々と繰り返し呼ばれ続ける名に苦笑が漏れる。
眩暈がしそうだった。
あまりにも周りが静かすぎて、彼女の声はいつも甘やかな歌のように響くから。
困ると思った。自分の預かり知らぬところで、彼女は繰り返し同じ名を呼び続けるのかと考えたら、それはどうやっても俺には届かないから。今回は気付けたからよかったものの、いつもそうとは限らない。
だから今、目の前で俺の名を呼んだ彼女の姿に例えようのない安堵をおぼえた。
「ああ、そうしてくれ」
言って、トゥーアナの手を引いたのは、恐らくもっと確かな安寧を求めていたからだったのだ。
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(c)aruhi 2009