カルムのポケットの中は一体どうなっているのだろう。
 ナティシアは、いつの頃からかよく考えるようになっていた。

***

 ぐきゅるう、とナティシアのお腹は鳴った。
 人の行き交う小道を照らす夕暮れ時。並んで歩いていたカルクラムは、奇妙に声をくぐもらせた後、噴き出す。一応、笑いを堪えようとしてくれたのだろう。それが分かっている分、ナティシアはいっそういたたまれない気持ちになった。
「ちょっと待って」
 にこやかに口元に笑みを浮かべて、カルクラムはズボンのポケットを探りだす。
 ナティシアは、『まただ』とひそかに目を瞠った。
 今日は何が出てくるのか。
 取り出されて、カルクラムの掌に載っていたのは、三つの飴玉だった。
 それぞれ違う色の包み紙にくるまれている飴玉は、彼の掌の上でころころと転がって、曲げられた指のあたりでとまる。
「どれがいい?」
 歩きながら、カルクラムはナティシアに尋ねる。
 右から、蜜、トウの実、リィアン、とカルクラムは飴玉を順繰りに指差す。
 ナティシアは、薄紅色のリィアンの飴玉をとった。包み紙とよく似た色の皮を持つりィアンという果物は、ナティシアにとってこちら側に来て初めて知ったものだ。甘い汁の中に混ざりこんだ酸味が爽やかで、特に気に入っている。それでも、そのことを口にしたことはなかったから、カルクラムが持っていた飴玉の中にリィアンが紛れていた偶然に思わず胸がはずんだ。
「ありがとう」
「うん」
 カルクラムは、トウの実の飴玉をポケットにしまい直すと、蜜飴の包みを開けて、口の中にほおり投げる。
 ころころと口の中で転がしているのだろうか。時折、かちかちと鳴る音の合間に、カルクラムの頬がぽこりと膨らんだかと思うと平らに戻った。
 彼にならって、ナティシアも口に含む。
 じんわりと、舌の上に溶けだした飴玉は果物のリィアンよりも、いくらかまろやかで甘い。
「もう少し行ったら、食堂街に入ると思うんだ。そうしたら、お昼ごはんにしよう。ちょっと遅くなっちゃったけど」
「市場、出てたら」
「何か買って食べたい?」
 ナティシアの言葉の先を繋いで、カルクラムは問う。ナティシアは、頷いた。
 食堂は露店で買うよりも少しばかり値段が張る。
 旅費をカルクラムに頼りきりのナティシアは、できる限り彼に負担はかけたくなかった。
 それに、露店の料理もそこそこおいしいのだ。安く手軽に食べられるものが多い分、その土地で一番安くおいしい旬の食材がふんだんに使われている。
 いくつも並ぶ食堂の中から下手に選ぶも、見て嗅いで美味しそうだと惹かれた露店の料理の方が失敗がないことをこの旅をしているうちに気付いた。
「そうだね。そっちの方がいいかも」
 カルクラムは、ナティシアの提案に賛成した。軽やかに響く声は無邪気だ。
 彼も生まれた村から出たことはほとんどないと言っていた。
 ナティシアと同じように、真新しいものも多くて、楽しいのかもしれない。



 



087.ポケットに1000のドロップ
2011.10.18~
カルムとシア。旅の途中