大丈夫だよ、と彼は言った。


***


 やわらかな若葉が、日光を浴びて身を逸らしている。
 わずか数日前は芽吹いたばかりの双葉だった野菜が、瞬く間に成長していることにソラリアは感動めいたものを覚えた。
 土を耕す。
 種をまく。
 水を与える。
 雑草と害虫を取り除き、たえず、その野菜にあった最適な環境を用意してやる。
 言葉にしてみれば、至極容易そうに聞こえる作業も自らの手でするとなれば難しい。
 ほんの些細なきっかけで、野菜はへそを曲げ、あっさりと枯れてしまう。
 ソラリアにとっては長年慣れ親しんできた作業だ。
 けれど、貴族階級出身の末っ子として何不自由なく暮らしてきたはずの彼にとってはそうではなかったはずだ。
 例え、彼自身が選択した道であったとしてもこうまでなるには辛い失敗の繰り返しだったろう。
蝶の羽でねむる 092

2012.10.08-