お前の苦しみはお前だけの

 

 華美なだけで、鬱陶しいばかりだと思ってきた世界。
 型通りの祝辞は表層のみを滑りゆく。
 己らの話に華を咲かせ、そのくせ意識だけは周囲へも向けながら耳をそばだててきた者たち。
 隠しきれぬ感情は、全てが煌びやかな扇に、微笑に、代えられては難なく隠された。
 
 
*****
 
 
「それで?」
「ん? んん……」
 人の肩に自身の肘を置いてきたかと思えば、寄りかかってくる。デルはそのまま尋ねた問いへの答えを待っているようだった。
 傍らにある一対の瞳の色は紺碧と、どこまでも昏いのに、誰の目にもどこまでもひょうきんにしか映らぬシトロナーデの貴人。『お前が王になったら敬語を使わなくてもいいぞ』と言って笑った俺よりも六つ年上の男。にも拘らず、彼自身は決してその座につくことのない位置にいる。
「なぁなぁ、どうなんだよ?」
「さあな」
 嘯けば、デルにこづかれる。
 シトロナーデの祝祭。うわべを以って交わされる言が、幾重にも折り重なってできた渦は、今年も周囲を取り巻いていた。彼らは、今も一心に耳を傾けているのだろうか。あれらの中には己自身の数が含まれていることも今では良く解しているが。
 
「ここに居なくて良かったと思う」
 古くからの友人は「ふぅん」とだけ相槌を示してから、「なら今度遊びに行くかな」と言った。
「勝手に来ればいい、歓迎はしないが」
「じゃあ今度、国から出る時にでも」
 そう宣言して、デルはニカリと笑った。
 
 
 
 
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(c)aruhi 2009